夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

浮くなら、椅子も

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学校で集合写真を撮った。撮った私だけ、集合に入っていない。

「全員いる?」と聞かれたので、カメラのこちら側から返事をした。声は届いた。人数のほうには入らなかった。

記録を作った人だけ、記録に残らない。ずいぶん手際のいい人消しだと思う。

スマホを台に置いて、セルフタイマーでもう一枚撮ることになった。

十秒の間に、自分の場所へ走る。隣の人の肩にぶつからないように止まり、髪を直して、笑う。みんなが休日みたいな顔をしている中で、私だけ体育の写真になった。

「もう一枚」と言う人は、その場所から動かない。

私はまた、スマホまで戻る。

こういう時、心霊写真は少し羨ましい。

後ろに知らない人が一人増えている、という、あれだ。並ぶ相談にも入らず、セルフタイマーの十秒も使わず、完成した写真にだけ参加できる。

こちらがあれだけ走った場所へ、あとから何でもない顔で来る。

怖いかどうかより先に、そこが気になる。

肩に、知らない手だけ写っている話もある。人の肩には触れるらしい。それなら、椅子の背もつかめないだろうか。

写真のあとには、並べた椅子を戻す用事がある。写った人数が一人増えたなら、運ぶ人も一人増えていい。

ただ、体をすり抜けるほうの幽霊だと困る。椅子を頼んだのに、腕だけ先に向こうへ出てしまう。見えないことより、そちらのほうが仕事の邪魔だ。

人の肩へ手を置く練習を、椅子でもやってから来てほしい。

家の中で働く機械だって、案外、こちらに用事を残す。

ロボット掃除機の動画を見た。床に落ちている靴下へ近づくと、少し向きを変えて、きれいに避けていった。

そこは踏まないように、私も毎日うまくやっている。

床がきれいになっていく横で、靴下だけはずっと落ちていた。周囲が片づくほど、そこにいることがはっきりしてくる。掃除のあとには、靴下を取りに行く用事が残るらしい。

幽霊なら、床の物をどかさなくても通れそうだ。

でも、靴下をすり抜けて歩くだけなら、私の部屋には何も足していない。せめて片方、拾ってから通り過ぎてほしい。

私が欲しいのは、気配ではなくて、人手なのだと思う。

怪談には、夜中に椅子が勝手に動く話もある。

それを先に言ってほしかった。

触れるかどうかで悩む必要がない。人が座っていない時に動かしてくれるなら、いちばん頼みやすい。夜中でなくても構わない。

動くところを見て怖がる人がいるなら、その人には先に帰ってもらう。私は椅子を戻す場所へ、テープで印を付けておく。

ただ、あの、ぎい、と床を擦る音は要らない。

浮いているご本人には、分からないかもしれないけれど。

椅子のほうを、浮かせて。

この話の一冊

おばけのてんぷら

せなけいこ 作・絵
ポプラ社・絵本のひろば

てんぷらを作るうさこのところへ、料理の匂いにつられたおばけが忍び込む。うさことおばけを描く、32ページの絵本。

鳴海のひと言

おばけがいるかどうかより、そこへ来て何をするかが気になった人へ。こちらでは、うさこが料理をしているところへ、匂いにつられておばけがやって来ます。
私は、怖い姿で出るつもりがあったとしても、揚げ物の匂いに用事を変えられてしまいそうなところが気になる。怪談の決まりより、目の前の食べ物が強そうだ。そんなずれを、短い絵本の絵ごと眺めたい日に。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。