夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

残り一分からが長い

本をめくって読む

ダウンロードの表示が「残り一分」になったので、本を閉じた。

一分なら、ここで待っていればいい。その一分がなかなか終わらない。閉じた本に指を挟んだまま、画面を見ている。本にも画面にも参加していない。

さっきまでの「残り八分」は、もう少し働いていた。よそを見ている間に三分になった。一分になった途端、急に慎重になる。そこまで来たなら、最後も同じ調子で頼みたい。

やっと表示が変わった。

残り二分。

相談もなく、延長された。

「最初から三分と言ってくれれば」と思うけど、最初から三分と言われたら、私は本を開いていた。その途中で終われば、今度はもう少し待っていてほしかったと言うと思う。機械にも事情はあるんだろう。予測できないなら、数字を大きく出さないでほしい。

電子レンジの一分は、その点では信用できる。ちゃんと減る。ただ、見ていると長いので、お茶を用意したり、皿を出したりする。

残り十秒くらいで用事がなくなる。

もう座りたい。十秒後には立つことになる。立ったままでいるには、十秒もある。台所の真ん中で、姿勢の損得を考えている。

あと三秒で止めた。

急いだ顔で取り出したのに、熱くて食べられない。三秒を惜しんだ人が、今度は皿に向かって息を吹いている。

でも、待っているだけの時間に何かしようとすると、だいたい別の用事が増える。

お茶の葉が少ない。買っておこうと思って、スマホにメモを開く。前に書いた「電池」がまだ残っている。何の電池かは書いていない。

書いた日の私は知っていたんだろうね。今日の私に引き継ぐ気が、まったくない。

「電池を買う」ではなく、「何の電池だったか調べる」という用事になっている。メモ一つで、仕事を増やせる人だった。

済んだ用事にチェックをつけるのは好きだ。できれば、つける前に一度眺めたい。ここを私が終わらせました、という短い式がある。

ところが、使っているリストは、チェックをつけると項目が下へ移る。未完了のものが上に残るので便利だとは思う。

一番よく働いた瞬間に、成果だけ見えなくなる。

買ってきた物は袋から出せばある。拭いた机も、しばらくはきれいだ。リストだけは、働くほど働いていない部分を見せてくる。私のやる気を管理する係には向いていない。

この前は、先に済ませた「ノートを買う」を、帰ってからリストへ書いた。

書いて、すぐチェックをつけた。

意味がないと思う人は、書かなくていい。私はあの売り場まで行った。罫線の幅を見て、値段を比べて、ちゃんと買った。それが一覧に載っていないだけで、今日は何も進んでいないように見えるのはおかしい。

お茶を入れた。ご飯も、食べられる温度になった。

スマホのメモに一つ足した。

「電池の正体を思い出す」

これで、元の「電池」にはチェックをつけていいと思う。次の担当者に渡したので。

担当者も私だけど、少なくとも今の私より、締切が先にある。

この話の一冊

限りある時間の使い方

オリバー・バークマン 著/高橋璃子 訳
かんき出版

人生の時間が限られていることを出発点に、効率化への期待、注意力、余暇、忙しさとの付き合い方を問い直す一冊。

鳴海のひと言

空いた一分にも用事を詰めないと損だと思う人に。もっと速く片づける方法より、全部片づくはずだという期待のほうを考えたいので、この本を選んだ。残り時間の表示を正確にする本ではない。私はまず、待っているだけなのに遅れている気がするところが気になる。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。