夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

置くだけの儀式

本をめくって読む

「置くだけで充電」と書いてある台に、スマホを置いた。何も起きなかった。

少し右へずらす。まだ違う。奥へ寄せる。光った。手を離す拍子に少し滑って、消えた。

いま、私が何をしたのかは見ていてほしい。置いてから、何度か置き直している。

ケーブルを差す手間から解放されるはずだった。代わりに、台の真ん中へスマホの真ん中を合わせる仕事が来た。四角の上に四角を載せるだけなのに、どちらにも真ん中の印はない。

ようやく充電の印が出たので、そっと手を離した。机を揺らさないように、椅子へ座る。

お供え物を置いたあとの動きになっている。

千年後、こういう台が土の中から見つかったら、何に使った物だと思われるのだろう。

小さな祭壇、くらいにはしてもらえそうだ。上に薄い板を置き、光るまで位置を直す。うまく光った日は、しばらく触らずにおく。光らない日は、いったん取り上げて、もう一度置く。

雨乞いの方が、まだ大きく動ける。

板の中へ毎日の出来事を記録し、食べる物の絵を集め、遠くの人から返事が届くのを待っていた、と説明が付くかもしれない。

そこまで合っていても、私の画面に出ていた「もう着いた?」だけは、その人たちに教えたくない。人類が大事に保存していた言葉としては、こちらの遅刻が目立ちすぎる。

博物館で「用途不明」と書いてある物を見ると、少し安心する。

分からない物を、分からないまま飾る場所がある。私の机にも、そういう一角はある。何かに使えそうで残した部品は、たいてい、何に使うか忘れた頃から捨てにくくなる。

小さな金具が一個ある。丸くて、横に突起がある。何から取れたか分からない。これを捨てた翌日に、本体の方が出てきそうなので、ずっと保管している。

机を拭くたびに、いったん持ち上げる。拭き終わると、同じ所へ戻す。何の物かは分からないけど、私が動かす順番だけは決まっている。

展示するなら、「付属品と考えられる。何の物かは不明」でいいと思う。私が説明しても、そこまでしか分かっていない。

スマホが鳴った。

充電の台から持ち上げて、返事をした。戻すと、光らない。また少しずらす。今度は向きを変える。

誰かから用事が届くたびに、祭壇を組み直すことになる。

充電できる所へ印を付けようかと思った。台へ線を引き、スマホにも線を引いて、毎回ぴったり合わせればいい。

台の後ろを見ると、ケーブルの差し口はスマホと同じだった。抜いて、スマホへ直接差した。充電の印が出た。

そのまま持ち上げて、椅子の背にもたれた。

余った台へ、小さな金具を載せた。

今度は、本当に置くだけだった。

この話の一冊

りんごかもしれない

ヨシタケ シンスケ
ブロンズ新社

目の前のりんごを、ほかの物や仕組みかもしれないと考え、想像を広げていく32ページの発想絵本。2013年刊。ヨシタケシンスケの絵本デビュー作。

鳴海のひと言

見慣れた物から、ずいぶん遠くの話へ行きたくなった人へ。今度は、一個のりんごから次々と別の可能性を考える絵本を。物の名前を知っていることが、想像を終える理由にはならない一冊です。
私は、正体を一つに決めるより、どんな形や仕組みを思いつけるか、絵と一緒に追ってみたい。目の前にある物をそのままにして、頭の中だけ少し散らかしたい日に。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。