夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

降りても、足が忙しい

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自転車を押して歩いていたら、ペダルがすねに当たった。

乗っていない時まで、足の場所を決めないでほしい。

少し離れて歩く。すると今度は、ハンドルが遠くなる。人を楽に運ぶための物なのに、その一台を運ぶ時だけ、体の使い方が難しい。

駐輪場では、乗っていない自転車同士も、あまり仲がよくない。

私のハンドルが、隣の前かごに少し入っていた。引くと、隣も来る。

あなたは、まだ帰らなくていい。

自分の一台を出したいだけなのに、先に他人の一台を押し戻す。戻そうとすると、さらに隣のハンドルに当たる。三台分の幅を使って、一台だけ帰る相談をしている。

ようやく離れたので、前輪をまっすぐにした。後輪はまだ、両隣に挟まれていた。

前だけで出発しないで。

かごには荷物を入れられる。便利だけど、外から入ってくる物を断る仕組みはない。

この前は、知らない飲み物の空き容器が入っていた。蓋もストローも付いていた。捨てる時だけ、持ち主が付いていなかった。

ごみ箱を探した。自転車を止めた場所から、少し歩いた。

私が移動するために買った物から、徒歩の用事が出てくる。

雨がやんだあとも、すぐには乗れない。サドルの上に水が残っている。

指で払ってみると、真ん中の水が横へ寄った。座る場所としては、そこも使う。

手のひらで一度に払った。サドルはましになった。今度は手を拭く物が要る。

最初からそれで拭けばよかったと思う。でも、最初の水は手で済みそうな量だった。手に移してから見ると、布が必要な量になっている。

サドルの後ろをつかんで、自転車を少し傾けたら、水が落ちた。

これは早かった。靴の先へ落ちなければ、もっとよかった。

水を避けながら足を置く時、またペダルが近くにいた。座る所も、手で持つ所もあるのに、立っている私の場所だけは最後まで決まらない。

乗ってしまえば、足を置く場所は二つとも用意されている。

その日は乗って帰った。

今度は、私から踏んだ。

この話の一冊

もものかんづめ

さくらももこ 著
集英社・集英社文庫

アルバイトや短い会社勤め、身の回りの出来事を、さくらももこが独特の目線で語るエッセイ集。困った出来事や格好のつかない自分が、可笑しい話へと変わっていく。

鳴海のひと言

すねにペダルが当たった時は、別に面白くない。あとから人に話すと、少しだけ話のほうが勝つことがある。
小さな災難を、役立つ教訓にせず笑える話として読みたい時に、この一冊を。
ただ、身体のことや下世話な話題も出てくる。上品で穏やかな随筆だけを読みたい夜には、少し騒がしいかもしれません。
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日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。