夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

ネタバレじゃないけど

本をめくって読む

「ネタバレじゃないけど、最後すごく泣くよ」と言われた。

それはもう、最後まで何も知らなかった私ではいられないのでは。

登場人物が楽しそうにしていても、この人か、と考える。犬が出てくれば、犬はやめてほしいと思う。誰もまだ病気になっていないのに、全員の健康を気にしながら見ることになる。

「誰がどうなるかは言ってないじゃん」

そうだね。名前を書かずに、全員へ予告状を配っただけだね。

本の帯に「まさかの結末」と書いてあるのも困る。まさかと思う準備をして読むので、素直な展開が全部疑わしい。親切な人が出てきても、そんなに親切で大丈夫か、と思ってしまう。本人は道を教えただけなのに。

映画の予告だと、もっと具体的なことが起きる。

主人公が崖から落ちかける。危ない。と思ったけど、予告で見た白い服をまだ着ていない。この人には着替える用事が残っているので、ここでは死なない。

私は助かってほしいと思いたかった。衣装の納品待ちをしたかったわけじゃない。

そのわりに、テレビで「このあと驚きの展開」と言われると、本当に何も教えてくれない。同じ人が同じ顔で驚くところを、何度も見せられる。

驚いたのは分かった。その人はもう知っているんだから、少し黙っていてほしい。まだ知らない私の前で、ずっと知っている顔をしている。

CMが終わると、驚く少し前まで戻る。

私、ここには自力で来られたんだけど。

天気予報はその点、先に明日の内容を言ってくれるので助かる。雨なら雨でいい。空模様にどんでん返しを求めていない。

ただ、「ところにより雨」が出ると急に話が遠くなる。

私も、ところには住んでいる。大きな地図のどこかではある。でも知りたいのは県全体の雰囲気ではなく、帰りに寄るパン屋まで濡れずに行けるかどうかなんだよね。

「念のため、折りたたみ傘があると安心です」

念のためなら、いつだってあったほうが安心だと思う。上着も替えの靴下も、おにぎりも。全部持って歩く気がないから、明日のことを聞いている。

仕方なく傘を入れる。

折りたたみ傘は、小さいことをものすごく宣伝される。袋に入った状態なら確かに小さい。買ったときは。

一度使うと、あの姿にはなかなか戻らない。

折り目に沿って巻けばいいのは分かる。でも折り目のほうが、私の希望する方向へ来ない。こちらを畳んでいる間に、向こうが開く。傘としての仕事は終わったんだから、もう広がろうとしなくていい。

ようやく巻けても、袋の入口が狭い。

入っていたんだから入る、と言われそうだけど、それは入れた人が言っている。出した人の意見も聞いてほしい。

しかも袋を失くさないように、雨の間ずっと保管していたのは私だ。再会した傘をそんなに嫌がるなら、別々に帰ってもらってもいいんだけど。

店の入口で、濡れた傘を袋へ押し込む。袖が濡れる。

雨にはあまり濡れなかったのに、雨を防いだ道具から濡らされている。

先に傘の着替えを済ませて、私はそのあと。ずいぶん大事なお客様を連れて帰ってきた。

この話の一冊

本の読み方 スロー・リーディングの実践

平野啓一郎 著
PHP研究所

一冊を丹念に読む「スロー・リーディング」を提案する読書案内。夏目漱石『こころ』や三島由紀夫『金閣寺』などの作品を題材に、読み方の工夫を紹介する。

鳴海のひと言

結末の答え合わせだけで本を読み終えたくない人に。途中の言葉をどう読むか、というところから選んだ一冊。先を知りたくない気持ちと、知ったらもう読むところがないという話は、別なので。私は崖から落ちる前の人を、もう少し普通に心配したい。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。