夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

星五つ。まだ使っていません

本をめくって読む

机に置く時計を探していて、商品のレビューを読んだ。

「まだ使っていませんが、期待を込めて星五つです」

時計は一秒も働いていないのに、もう表彰されていた。

期待を込めるのはいい。私は結果を見に来たので、その気持ちはいったん本人の中で温めておいてほしい。星が五つあると、使ってよかった人が一人いたように見える。

「すぐ届きました。梱包も丁寧でした」という人もいた。

配達の人と箱は立派だったらしい。時計の話をしている人が、なかなか出てこない。席へ早く着いて、筆箱をきれいに並べただけで満点になるなら、私も一時間目はかなり強い。

少し下に、「音が気になります」とあった。その下には「とても静かです」。

時計は商品写真の中で、同じ顔をしている。

どちらの人も嘘はついていないんだろう。枕の横に置く人と、テレビの横に置く人では違う。眠る前の部屋で聞いたのか、昼間、掃除機をかけながら聞いたのか。音を知るために、知らない人の部屋の配置が必要になってきた。

「思ったより大きかった」もあった。

思っていた大きさが書いていない。こちらに届いたのは、二つの大きさの差だけだ。

手に持った写真を載せてくれる人は親切だと思う。ただ、その手がどのくらいなのか分からない。時計を知るために手を見て、手を知るためにもう一個、知っている物が欲しくなる。

隣に十円玉を置いてほしい。十円玉は、撮った人の感想で伸びたりしないので。

学校でも、試験のあとに「普通だった」と言う人がいる。

その普通は、誰の普通なのか。最後の問題を「ちょっと考えた」と言う人は、それ以前の問題をもう帰宅させている。私はまだ二問目の前で靴を脱いでいた。

「全然勉強してない」と言っていた人に聞くと、あとから「昨日は」がついた。

おとといまではしていたらしい。昨日が休みだっただけで、一週間全体に休業のお知らせを出さないでほしい。

この人の「全然」は、昨日の午前零時からしか使えない。

時計のレビューに戻る。

静かだと書いた人の、ほかの感想も見てしまった。マグカップは「少し小さい」、クッションは「硬めで好み」、タオルは「思ったより薄い」。

時計を一つ選ぶつもりが、知らない人の部屋を勝手に作っている。硬い所に座り、大きなカップで飲み物を飲み、厚いタオルで拭きたい人。その人の部屋では、あの時計は静からしい。

だいぶ親しくなった気がする。向こうは私が誰なのか知らないし、こちらも名前は覚えていない。タオルの好みだけ詳しい。

最初の、期待を込めて星五つの人をもう一度見た。

続きがあった。

「使ってみたら追記します」

三年前に書かれていた。

時計の音は分からなかったけれど、買った人は三年間、静かだった。

この話の一冊

その「おこだわり」、俺にもくれよ!!(1)

清野とおる 著
講談社

日常の小さな楽しみを、独自のやり方で味わう人々を訪ねるノンフィクション漫画。第1巻。

鳴海のひと言

星の数より、その人が何を気にして暮らしているかのほうが知りたくなった人へ。白湯やツナ缶の楽しみ方を、そこまで詰めるのか、という漫画。真似するかは別。全部まねしたら、私の一日が他人の好みで埋まる。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。