夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

よくできました

本をめくって読む

SNSを見ていると、みんな頻繁に自分へご褒美をあげている。

今週も頑張ったのでケーキ。嫌なことがあったので服。何もないけど、いつも頑張っているので何か。

審査が身内すぎる。

私は普通にお菓子を買うけど、頑張ったことにすると少し高いものまで許されるらしい。便利だと思う。「欲しかった」では通らない予算が、「頑張った」になると通る。同じ財布なのに、誰を説得しているんだろう。

この前、クッキーの缶を見ていた。猫の絵がついている。

クッキーだけなら隣の袋入りでいい。分かっている。でも猫が本を読んでいる。よりによって。

猫は本を読まないくせに、こういうときだけ読む。人間の金で。

買って帰った。

中身はなくなったけど、缶は残っている。こういう缶は捨てられない。何か入るから。

何が入るかは、まだ決まっていない。

店で使う輪ゴムを入れようかとも思ったけど、本を読んでいる猫に輪ゴムを預けるのは、少し違う気がした。もう少しちゃんとした物が入っていてほしい。缶のために、ちゃんとした物を探している。

収納って、こういう順番だったっけ。

片づけの動画を見ると、同じ箱をいくつも買って、物をきれいに分けている。

あれは見ていて気持ちがいい。ただ、しまい終わったあとも、どこかに「買ったけど使わなかった収納箱」があるはずなんだよね。そこも映してほしい。私が知りたいのは、そいつの居場所なので。

「まず全部出しましょう」と言う人もいる。

簡単に言わないでほしい。全部出したあとの床で、急にやる気がなくなるところまで考えているのか。動画の人は最後まで元気だけど、私は自分をそこまで信用していない。

一度全部出したら、片づけるまで寝られない。

これを逃げ道をなくすと言うらしい。自分の部屋で、自分を追い詰める必要があるのか。外で嫌なことがあった人が帰ってくる場所なんだけど。

そもそも、捨てる物を選ぶのも面倒だ。

使っていないけど使える物が多すぎる。使っていないから傷んでいない。大事に使った物のほうが先に捨てることになる。何もしなかったやつが、いちばんきれいな顔で残る。

学校の班で何か作るときにも、そういう人がいる。

ここは長くなるからやめる。

とにかく、私は棚を一段片づけた。途中で古い漫画を読んだけど、最後まで片づけたので、これは頑張ったに入れていいと思う。

ご褒美に、あのクッキーをもう一度買おうかと考えている。

今度の缶は、猫が寝ている。

こいつ、前回から何も頑張ってないのに。

この話の一冊

ぼくたちに、もうモノは必要ない。増補版

佐々木典士 著
筑摩書房

モノが増える理由や、手放すための考え方と方法を扱う一冊。増補版では、手放すためのルールを80項目に広げている。

鳴海のひと言

「いつか使う」の、いつかが来ない人に。収納を買う前に、しまう物のほうを疑ってみたいなら、この本。きれいな箱に移す方法が欲しい人とは、少し話が合わないと思う。私はまず、猫の缶を見えないところへ置いてから考える。あれと目が合うと、判断に猫が混じるので。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。