先に、解散時刻を
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鳴海の偏愛棚
コラムの順番は気にせず、気になる一冊から。
望月鳴海の店番日記 · 横書き
話の途中で、くしゃみが出そうになった。
口を少し開け、片手を上げて待ってもらう。同級生も話すのをやめた。二人で、私の鼻から何か出てくるのを待つ。
出なかった。
「出ないんだ」と言われた。私も、今、それを知った。呼んだのはこちらだけど、出演を保証したわけではない。
話を再開してもらったら、三文字くらいで出た。
さっきの静かな時間を使ってほしかった。人が黙ると引っ込み、聞くことができた瞬間に出てくる。鼻の中だけ、会話に参加する気がない。
推理ものの探偵は、その待たせ方をずいぶん堂々とやる。
「犯人が分かりました。皆さん、お集まりください」
もう分かっているのに、まず集会の準備が始まる。廊下にいる人を呼び、二階にいる人を呼び、椅子を並べる。その間、犯人にも集合時刻が伝わっている。
私なら、先にその一人を見ておく。全員へ知らせてから、全員が逃げずに来ることを期待したくない。
集まった人たちは、だいたい似た向きに座る。いちばんいい場所には探偵が立つ。私が窓際にいると、途中で振り向くたびに、外の何かを気にしている人に見えそうだ。
出入口に近い席も危ない。すぐ帰れると思って選んだ場所が、すぐ逃げるつもりだった人の場所になる。座席の希望だけで、もう少し疑われる。
仕方なく真ん中へ座ると、今度は帰る時に両側へ謝らないといけない。
探偵は、最初に疑った人から順番に話す。
「初めは、あなたが怪しいと思いました」
その人は、顔を上げる。違ったという結論へ行くまで、しばらく悪い所を聞かされる。疑いが晴れたあとも席はそのままなので、次に疑われた人の悪い所まで聞く。
何もしていない人ほど、他人の事情に詳しくなって帰る。
無実だと分かった人から帰してあげたら、と思う。でも、次に名前を呼ばれる人が減るたび、残る椅子の意味が重くなる。最後の一人には、もう推理を聞く用事がない。
私は、途中でお茶を飲みたい。
でも、探偵が「決定的な証拠は」と言ったところでカップへ手を伸ばすと、それを聞いて動揺した人の手になる。飲むだけなら、もう少し前だった。証拠を知る前に、水分を済ませておく必要がある。
立ち上がった人を、探偵が鋭く見る場面もある。
トイレだったらどうするんだろう。
「どちらへ」と聞かれて、全員の前で行き先を言う。黙れば怪しい。言えば、何もしていない私の予定だけが具体的になる。
椅子へ戻ると、探偵は「では、最初から」と言うかもしれない。
そこまで親切にしなくていい。今の数分だけ、隣の人にあとで聞く。私がいない間に犯人が変わっていなければ、たぶん追い付ける。
集合のお知らせには、終わる時刻も書いてほしい。
犯行時刻には、あんなに細かいのに。
名探偵の掟
名探偵・天下一大五郎が12の難事件に挑む、本格推理のお約束を扱ったミステリ。密室や時刻表トリックなど、謎を解く物語の決まり事そのものへ目を向ける。講談社文庫版は1999年刊。
鳴海のひと言
探偵の推理より、集められた人の振る舞いが気になった人へ。物語の決まり事を当然のものとして受け取らず、そこへ突っ込みながら読む関心を、本の側からも揺さぶる一冊。出版社の公式試し読みを開く ↗
私は、探偵が正解を言って終わるだけでなく、その正解を発表する仕組みの方まで気になる日に、こちらを開いてみたい。
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鳴海の紹介と、本の詳しい情報を見る日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。