夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

埋めた人は、どこですか

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クリームパンを食べた。三口目まで、パンだった。

パンなのは知っている。袋にも書いてあった。ただ、先頭にクリームを名乗らせた以上、そちらにも早めに出てきてほしい。

四口目でようやく少し黄色くなった。そこから急に多い。待たせた分を、ひと口で精算しようとしている。

端まで均等に入れるのは難しいんだと思う。でも、こちらには中が見えない。クリームの居場所を知っている人だけ、もう帰っている。

宝の地図を付けてくれたらいいのに。

海賊は、その点では丁寧だ。わざわざ島の絵を描き、宝の所へ印を付ける。取られたくなくて埋めた物の場所を、なぜ紙へ清書するんだろう。

しかも、だいたい焼けたような茶色い紙だ。今日埋めたなら、新しい紙でいい。地図の段階から、後世の人が見つけた感じに仕上げなくても。

縁を焦がしている間に、場所を忘れたらどうする。

宝箱も、運ぶ人のことをあまり考えていない形をしている。ふたが丸くて、上へもう一個載せにくい。金貨が入っている箱なら、中身の時点で十分に重い。外側の金具まで立派にすると、盗んだあとから急に勤勉になる。

船から浜へ降ろして、森へ運び、穴を掘る。誰が掘るのかで一度もめそうだ。海賊になりたかった人たちを集めて、今日の仕事は土木だと伝える。

船長は、たぶん地図を持って立っている。

「もう少し深く」と言う人だけ、靴がきれいなままだと思う。

穴を埋めたら、今度は土の色が違う。草もそこだけない。隠し場所というより、ここを掘りましたという完成写真になっている。

落ち葉をかけて、周りとなじませる。踏んだ草を起こす。枝を元の向きへ戻す。金貨を奪う時には気にしなかった景観へ、帰り際だけ急に配慮する。

そこまで片づけて、地図に大きく、ばつ。

今、隠したところなのに。

罠を置くなら、あとで取りに来る自分のことも覚えていてほしい。何年もたってから、昔の自分が張り切って並べた槍へ会いに行く。老後の備えとしては、かなり足腰を信用している。

私なら暗号もやめておく。引き出しへしまった鍵の場所さえ忘れるのに、十年前に考えたしゃれた言い換えを、今日の私へ解かせたくない。

「朝日が王冠を照らす時」ではなく、「右の引き出し」と書いてほしい。朝まで待つ予定はない。

ただ、右の引き出しを開けたら、そこにも小さい鍵が入っていた、というのは嫌だ。箱を開けた喜びより先に、次の箱を探す仕事が来る。

私はクリームパンを、手で二つに割った。

黄色い所を見てから食べる。少しはみ出したけど、もう口の行き先は分かる。残りのパンにもクリームを付けて、皿へ置いた。

袋を見ると、割ったパンの写真が載っていた。中身が、端の方まできれいに見えている。

撮影した人は、場所を知っていたのだと思う。

次から、ばつを付けて。

この話の一冊

新釈 走れメロス 他四篇

森見 登美彦
角川文庫

近代文学の五つの名作を、現代の京都を舞台に書き換えた短編集。表題作では、親友との約束を守らないために主人公が京都を走る。角川文庫版は2015年刊。

鳴海のひと言

宝を隠す海賊の、穴を掘る手間まで気になった人へ。物語の立派な目的を、別の都合から眺め直す楽しさを、今度は五つの短編で。
私は、全力で走る姿をそのまま美談にせず、なぜ走るのかをひねるところが気になる。日常の随筆をもう一篇、というより、理屈が妙な方向へ本気で進む小説を読みたい日に。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。