夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

勝った人から、何を?

本をめくって読む

じゃんけんに勝ったら、最初に発表することになった。

勝った人から、と先生は言った。その「から」の先を、先に教えてほしかった。

勝ちたいとは思っていた。思っていたので、ちゃんと嬉しい顔までした。その顔のまま、ノートを持って前へ出ることになった。

負けた人が「頑張って」と言った。

そちらも、今のじゃんけんには頑張って参加していたはずなんだけど。

早く済めば、あとは楽だという考えもある。私は自分の番が終わると、後の人の発表を落ち着いて聞ける。途中で紙を落とした人に、さっきなら持てなかった余裕まで持てる。

ただ、最初に出ると、お手本のほうがまだ来ていない。

どのくらい話すのか、ノートを見ていいのか。二番目の人は、私を見てから決められる。私の発表が短すぎても、そこで一つ分かる。こちらが間違えて用意した長さを、後ろの人だけ使える。

せめて、勝った人には一回、見学を付けてほしい。

テレビの早押しクイズでは、もっと早く出てくる人がいる。

「日本で、いちばん」くらいでボタンを押す。

何が。

高いのか、長いのか、古いのか。その人にはまだ、日本が出てきたことしか伝わっていない。私は日本を知っているけれど、その続きまで答える約束はしていない。

見ていた番組では、ランプがつくと、問題を読む人が止まった。

押した人は、目を少し上へ向けて考える。そこから先は、あなたが聞くのを止めた部分では。

何も思いつかず、黙っている時もある。

さっきの問題の人も、今なら少し続きを読んでくれそうな顔をしている。先にボタンを押しただけなのに、二人とも止まってしまった。

料理の動画だと、考える前にどんどん先へ行く。

ボウルへクリームチーズを入れたところから、次の瞬間にはもう、滑らかになっている。混ぜた人の手は画面に出ているけれど、混ぜていた時間のほうは、ほとんどいない。

その日、私は同じチーズケーキを作ってみた。

画面を止めて、混ぜる。動画のチーズは、もうずっと滑らかなままで待っている。こちらにだけ白い塊が残っている。止めているのは向こうなのに、私は手を動かしている。

ようやく追い付いて再生すると、「冷蔵庫で三時間ほど休ませます」と言われた。

そこは、急に全部ある。

動画では一秒後に出来上がった。私のほうは冷蔵庫へ入れて、まだ台所にいる。三時間を入れる容器だけ、材料の一覧になかった。

冷蔵庫の中の物を少し寄せて、平らな場所を作った。お菓子は寝かせてもらえる。私はボウルを洗った。

そのあと、お茶とせんべいを出した。

作ったお菓子を食べるために、お菓子を一つ先に食べている。

こちらを材料の欄へ書いておいてほしい。

三時間分。

この話の一冊

きまぐれロボット

星新一 著
KADOKAWA・角川文庫

博士の発明や発見が、思いがけない騒動を起こすショートショート集。表題作では、優秀なはずのロボットが、ときどき暴れたり逃げたりする。

鳴海のひと言

勝てば嬉しいと思っていたし、動画の通りに進めば早いと思っていた。最初に聞いた説明と、その先で起きることがずれる話を、今度は短い物語で読みたい人へ。
博士が自慢するロボットに、なぜ困ることになるのか。説明を聞いてすぐ欲しくなった人の、その後が気になります。
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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。