顔があると、食べにくい
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鳴海の偏愛棚
コラムの順番は気にせず、気になる一冊から。
望月鳴海の店番日記 · 横書き
たい焼きの頭をかじったら、「そこから食べるんだ」と言われた。
では、どこなら初対面の魚に失礼がないんだろう。
尻尾から食べる人もいる。あんこの少ない所を先に済ませたいそうだ。それは分かる。ただ、最後に頭だけ残る。食べている間ずっと、相手の顔がこちらにある。
お腹からいけば穏やかなのかというと、一匹が二つになる。
食べるために焼いた物なのに、形を守るための順番まで考えている。四角く焼いてくれたら、角から普通に食べたと思う。魚にした時点で、そちらにも少し責任がある。
ひよこの形のおまんじゅうは、もっと難しい。
目が二つと、くちばしが少し。それだけなのに、袋から出すとちゃんとこちらを向く。底の平らな所から食べれば、顔は残せる。でも、どんどん背が低くなる。
かわいがっているつもりで、ずいぶん変わった姿にしている。
半分に割ればいい、という案もある。
それを平気でできる人なら、最初から食べ始めていると思う。私は、割ったあとの左右を皿へ並べ直しそうだ。せめて、元の向きにはしておきたい。
一口で食べれば、途中を見なくて済む。
まだ味の話を、一度もしていない。
飲み物に顔がある時も、先に少し考える。
喫茶店で、泡の上に猫を描いてもらったことがある。耳もひげもある。よくできているので写真を撮った。店員さんは「温かいうちにどうぞ」と言って、離れていった。
完成したばかりの猫を、すぐ飲む。
カップを傾けると、顔が口元へ寄ってきた。少し飲んで戻したら、片方の頬がずいぶん伸びていた。目とひげは、まだきちんと残っている。
猫としては変だけど、飲み物としては減っている。こちらの用事は進んでいた。
二口目を飲んだ。今度は耳が一つなくなった。残っているほうだけ妙にはっきりして、さっきより顔を見てしまう。
白い泡なら、鼻に付いても拭くだけなのに。
たい焼きは、頭を食べてしまうと気楽だった。あとはあんこと皮なので、熱い所だけ気にしていればいい。さっきの魚にあんなに意見があった私も、もう黙って食べている。
最後に、薄い尻尾が残った。
そこだけ、もう少し食べたかった。
次に買った時は、尻尾から食べてみた。取っておく間に冷めるのが惜しくなったので。
「今度は、そっちからなんだ」
聞こえたけど、頭のほうへ袋をかぶせた。
今は、尻尾が熱い。
ねにもつタイプ
日常の気になることから、突拍子もない想像へ入り込んでいくエッセイ集。五輪をめぐる一編では、競技やメダルまで勝手に組み替えてしまう。
鳴海のひと言
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鳴海の紹介と、本の詳しい情報を見る日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。