夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

夢の私に言ってください

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「昨日、夢に出てきた。すごく感じ悪かった」と同級生に言われた。

知らない駅で道を聞いたら、私が「知らない」と言って帰ったらしい。

知らない駅へ急に置かれた私としては、かなり正確に答えている。

「でも、言い方がさ」

寝ている間の口調まで直せと言われても困る。私の夢に出た私なら、まだこちらで話を聞くけど。

詳しく聞くと、その駅は海の上にあった。線路がどうなっていたかは覚えていないのに、私の返事だけは妙にはっきりしている。

地面がなくても平気なのに、愛想がないと気になるらしい。

私の夢の地理も、あまり信用できない。

私もこの前、教室のドアを開けたらスーパーだった。そのまま買い物を始めた。現実なら、いつもの棚からパンが移っただけで、店内を二周するのに。

夢の私は、すぐ野菜売り場へ行った。

ねぎを買った。

なぜ、ねぎなのか。教室の先がスーパーでいいなら、その次は海でも城でもいい。寝ている時くらい、手ぶらで面白い場所へ行けばいいのに。

ところが、袋が小さかった。

ねぎの白いところは入る。緑の先は大きくはみ出す。持ち手をまとめると葉が挟まり、少し傾けると、今度は私の腕に当たる。

長い物を持っていると、曲がる前にその先を気にしないといけない。自分の幅だけなら通れるところで、緑の先が棚に触れそうになる。

縦に持てばいいと思うけど、そうすると顔へ近づく。人前でねぎを抱えて歩く姿は、何かを祝ってもらった人に少し似ている。花ならよかったね。

教室からスーパーまでは一歩だった。袋の底からねぎの先までは、きっちり長い。

そこだけ省略しない。

私は袋を持ち替えながら歩いた。何か大事な用があった気がするけど、ねぎをどうするか考えている間に目が覚めた。

夢だと分かった瞬間は、少し腹が立った。袋から抜いて手に持てばよかった、という案まで浮かんでいたのに、試すところがもうない。

よく、楽しい夢の続きが見たいと言う人がいる。

私は一度、荷物を置くところまで見たい。さっきまで困っていた手が、急に布団の上で空いている。楽にはなったけど、あの途中で終わる感じが気に入らない。

教室をスーパーへつなぐ余裕はあるくせに、台所までの近道は一つも用意されなかった。

もう一度寝ようかと思った。

続きがレジからだったら嫌なので、起きた。

この話の一冊

文鳥・夢十夜

夏目漱石 著
新潮文庫

「文鳥」「夢十夜」「思い出す事など」「永日小品」など、七編を収めた作品集。

鳴海のひと言

夢の話は、何でもありなのに、変な所だけ細かい。『夢十夜』なら、その細かさを一文ずつ確かめながら進める。寝ている人の話と違って、気になった所へ戻れるのがいい。私はまず、夢の中でまで木を彫っている第六夜が気になる。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。