夕方の光が差す古書店。制服に深緑のエプロンを着た鳴海が、古い木のカウンターに座っている。

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望月鳴海の店番日記 · 横書き

読む時間はないのに、買う時間はある

本をめくって読む

「本を読む時間がなくてね」と言う人が、三冊買っていった。

選ぶ時間はあったらしい。別に責めてない。選ぶところまでうちで、読むところからその人の仕事なので、できれば先にお会計を済ませてほしい。

「今度の休みに、まとめて読むから」

今度の休みって、ずいぶん頼りにされている。平日の五日分の疲れを取って、掃除して、買い物して、本まで読む。休み本人に予定を見せたら、来なくなると思う。

私も読むつもりで置いてある本はある。読む順番を変える作業だけなら、かなり進んでいる。今日読む本を決めているうちに、昨日まで読む予定だった本が奥へ行く。全員、面接には来ている。

ただ、本が増えると本棚が欲しくなるのは、順番がおかしい気もする。本を読むために買ったはずなのに、本の住まいを整える話になっている。

人間のほうは、床に座っているのに。

家具の通販を見ていたら、「簡単組み立て」と書いてあった。

あの簡単は、誰に聞いたんだろう。作った会社の人なら簡単だと思う。分からなかったら、そっちのほうが困る。

私は、部品の向きを絵で示されても、その絵の向きに自分が回り込むことがある。説明書の人は分かっているから、矢印一本で済ませる。私はその矢印が分からなくて、このページにいる。

「逆の手順で取り外してください」も嫌いだ。

できる人の言い方。そこまで戻れるなら、最初からこんなところに座り込んでいない。

しかも、組み立て家具には小さい工具がついてくる。

親切なんだけど、捨てられない。次に外すときに必要かもしれないから。この家具がうちから出ていく日まで、私があの小さい金属の所在を把握していないといけない。

家具の説明には、そういう付き合いの長さまで書いておいてほしい。収納力を増やした直後に、保管する物を渡さないで。

お菓子についてくる小さいフォークは気軽に捨てられるのに、六角形になるだけで急に将来が発生する。

それで、工具を入れる箱が欲しくなる。

その箱を置く場所も、たぶん必要になる。

本を三冊読めば少し片づく話だったのに、家の設備を増やす計画に育ってきた。読書って、お金がかからない趣味だと聞いていたんだけど。

さっきのお客さんは、本棚を買うか迷っているとも言っていた。

「休みがつぶれちゃうかな」と。

つぶれると思う。部品を広げて、板を逆につけて、外して、今度は合っているはずなのに穴が合わない。

でも、よかったね。

その日は説明書を何度も読むことになる。

三冊を袋に入れながら、私は「よい休日を」と言った。

読書の予定は、たぶん守れる。

この話の一冊

積ん読の本

石井千湖 著
主婦と生活社

本読み12人の積ん読事情を聞いた一冊。

鳴海のひと言

ほかの本好きが、読んでない本とどう付き合ってるか。気になるなら、この一冊。片付けの手順だけ欲しいなら、別の本を選ぶよ。自分に都合のいい結論は、せめて読んでから探して。

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次は、何を読もう。

日記をもう一篇読むか、今の好みで本を探すか。気が向いたほうへ。